デジタル化(DX)は進んだが、効果実感は約半数に留まる現状
介護現場におけるデジタル化(DX)は着実に進展しています。公益財団法人介護労働安定センターの「令和6年度介護労働実態調査」によると、ケア記録やケアプラン等の入力・保存・転記機能を日常的に利用している事業所は75.4%にものぼります。
しかし、ICT機器や介護ロボットを導入しても、「昼間の業務負担の軽減」に効果を感じている事業所は49.4%、「夜間」では44.6%と、効果の実感は約半数にとどまっています。この背景には、デジタル化によって「基盤はできたが、実行の負担までは変わっていない」という段階があると考えられます。

DX(デジタル化)からAX(AIが業務を実行する)への転換
DX(デジタル化)は、紙や手作業をデジタルに置き換え、記録・情報共有の土台を築く構造的な変革です。これに対し、AX(AIトランスフォーメーション)は、DXによって構築されたデジタル基盤の上に、AIが「判断」と「実行」までを担う段階を指します。デジタル化では人が行っていた入力・確認・転記といった業務の多くをAIが下書き・実行することで、人は確認と判断に集中できるようになります。
生成AIの実用化が進む2025年以降、企業ではデジタル化推進の部署をAI活用(AX)の体制に再編する動きも報じられています。

全産業で進むAXの波と介護現場への影響
AIによる業務の作り替え(AX)は、今や産業全体を動かしています。総務省の令和7年版情報通信白書によれば、企業は生成AIを文書作成やカスタマーサポート等に活用し、その主な目的は人手不足対策と業務効率化であるとされています。約75%の企業が「業務効率化や人員不足の解消につながると思う」と回答しており、人手が足りないからこそAIで仕事のやり方を変えるという動機は、介護業界と共通しています。
生成AIの活用は「検討」から「実装」の段階へ移りつつありますが、期待を上回る効果を実感できる企業は限られ、二極化が続くと指摘されています(帝国データバンク・2026年)。なお、日本で生成AIの「活用方針を定めている」企業は42.7%で、米国・ドイツ・中国の約8割と比較しておよそ半分にとどまっています(総務省・同白書)。
介護・看護・医療・障害福祉分野もこの流れの例外ではありません。むしろ、人手不足が最も深刻な分野の一つであり、他の産業でAXに取り組む事業者とそうでない事業者との間で差が開き始めているのであれば、介護現場でも同様の変化が起こると考えられます。
介護現場の構造的課題とAXの必要性
要支援を含む介護認定を受けている方は約690万人(令和4年5月時点・介護保険事業状況報告)にのぼります。一方、介護職員は2026年度に約240万人が必要とされ、2022年度の約215万人から約25万人の増員が必要とされています(第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について)。
このような状況下で、従業員が「不足」と感じる事業所は65.2%(前年度64.7%/令和6年度介護労働実態調査)、「今の報酬では十分な賃金を払えない」と感じる事業所は約39.1%(同調査)に達しています。このような構造的な課題は、単に記録の入力を少し減らすだけでは解決が困難です。
記録・計画・報告といった時間のかかるアウトプットそのものをAIが下書きし、専門職が確認・承認する——そうした「業務の作り替え(AX)」が、次に問われる重要な論点となっています。

国による具体的な後押し
国の支援は抽象的な呼びかけにとどまらず、具体的な施策としてすでに動き出しています。
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報酬での後押し:「生産性向上推進体制加算」の新設(令和6年度改定)
見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入し、国のガイドラインに沿った業務改善を継続し、事業年度ごとに厚生労働省に実績データを報告した事業所に対し、加算(Ⅱ)として一月あたり10単位を算定できる仕組みが新設されました。テクノロジーを複数導入し、報告データで成果が確認された場合には、より高い評価(加算(Ⅰ))が設定されています。これは「入れて終わり」ではなく「成果を報告する」ことまでを報酬の仕組みに組み込んだ点が特徴です。 -
対象分野の拡充:「重点分野」を9分野16項目へ(令和6年6月)
国が支援の重点を置く介護テクノロジーの分野が、令和6年6月に9分野16項目へと拡充されました。移乗支援・排泄支援・入浴支援・見守り(施設/在宅)・コミュニケーションに加え、機能訓練支援・食事栄養管理支援・認知症ケア支援の3分野が新たに追加され、記録や情報共有を扱う「介護業務支援」も分野として位置づけられています。名称も「ロボット技術の介護利用における重点分野」から「介護テクノロジー利用の重点分野」へと改められました。 -
AIまで含む導入支援:「AIケアプラン原案作成支援ソフト」も対象経費に
介護テクノロジー導入支援事業では、都道府県の実施要綱において、介護ソフトやタブレット等に加えて「AIケアプラン原案作成支援ソフト」も対象経費に挙げられています。デジタル機器の導入だけでなく、AIによる業務支援まで、補助の対象が広がっています。
さらに、令和8年(2026年)には、厚生労働省が介護テクノロジーの取組事例集やパッケージ導入モデル(改訂版)を公表し、生産性向上の効果測定事業も実施しています。国の関心は「導入したか」から「成果が出たか」へと移りつつあり、これは“入れただけ”を超えるAX(業務の作り替え)の方向と重なります。

現場で起きている変化と先行施設の成果
デジタル化だけでなく、AIで日々の業務を回すようになると、現場からは「心理的な負担が軽くなった」「到底さばけなかった仕事量が、限られた時間でこなせるようになった」「その日の業務時間内に業務が片づき、数年来の悩みが解けた」といった声も出始めています。こうした変化に触れ、これまでAIに積極的でなかった職員も使い始め、事業所全体へ広がっていくことでしょう。この動きは令和6年以降、令和7〜8年で加速しており、令和9〜10年にはさらに大きくなると見ています。
「入れただけ」と「業務そのものを作り替えた」の差は、数字にも表れ始めています。
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見守り機器を全床に導入した施設では、夜勤職員1人あたりが対応できる利用者数が平均35.2%増加したと示されています(厚生労働省の生産性向上の効果測定・実証)。導入の割合が高い施設ほど、業務時間に占める「直接介護」や「巡回・移動」の時間の割合が下がる傾向も確認されており、リアルタイムに状態を把握できることで、必要なタイミングでケアができるようになったためと推察されています。
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生産性向上に先進的に取り組む特定施設では、介護サービスの質の確保と職員の負担軽減を確認したうえで、人員配置基準の特例的な柔軟化が認められています(令和6年度改定)。取り組みが進んだ事業所は、成果に加えて、経営上の選択肢まで広がる形になっています。
つまり、テクノロジーやAIを「入れたかどうか」ではなく、「業務そのものを作り替え、成果を出せたか(AX)」で、事業所間の差が開き始めています。人手不足が深刻になるほど、この差は経営に影響を与えることでしょう。

個人情報保護への留意点
AI・AXの導入や、記録をAIに渡す運用にあたっては、利用者の氏名・被保険者番号などの個人情報の扱い(伏字・事業所内ルールの確認)にご留意ください。
株式会社ライフシフトについて
株式会社ライフシフトは、国・都道府県・市区町村や調査機関が公表する介護・障害福祉・労務税務の一次情報を整理する取り組みを行っています。
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会社名:株式会社ライフシフト
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所在地:沖縄県南城市
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代表者:CEO 嶺井政哉
関連リンク
より詳しい記事は以下のリンクからご覧いただけます。
- 「介護のDXからAXへ」:https://lifeshift-inc.com/kaigo-dx-ax/





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