取適法施行3ヶ月、業務委託の適正化が急務に ― 大手企業は「偽装請負」リスクの再点検が必要です

2026年1月1日に施行された「中小受託取引適正化法」(通称:取適法)は、施行から3ヶ月が経過しました。この法律は旧下請法を約70年ぶりに抜本的に見直したもので、従業員基準の新設により適用対象が大幅に拡大しています。そのため、業務委託取引を活用する大手企業にとっても、その影響は大きいと考えられます。
しかし、多くの現場では法改正への対応が追いついていないのが現状です。さらに、取適法以前の問題として、業務委託と派遣の境界線が曖昧なまま運用されてきた現場では、「偽装請負」という構造的なリスクが潜在しています。近年ではSNS上で偽装請負に関する議論が急速に拡散し、企業のコンプライアンス姿勢が社会的に注目される場面が増えています。
本記事では、業務委託適正化の現状と基礎知識、そして今後の契約見直しにあたって確認すべきポイントを整理します。
取適法施行3ヶ月 ― 業務委託適正化の現在地
取適法(中小受託取引適正化法)とは何か
取適法の正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。1956年に制定された下請法を抜本的に改正し、2026年1月1日に施行されました。主な改正ポイントは以下の通りです。

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従業員基準の追加: 従来の資本金基準に加え、常時使用する従業員数による基準が新設されました。製造委託等の場合は300人超、役務提供委託等の場合は100人超が「委託事業者」の対象となります。資本金基準または従業員基準のいずれかを満たせば取適法が適用されるため、規制対象が大幅に拡大しました。
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手形払いの禁止: 下請代金の手形支払いが原則禁止となりました。電子記録債権等についても、支払期日までに代金相当額を得ることが困難な手段は禁止されています。
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価格協議の義務化: 中小受託事業者からの価格協議の求めに応じず、一方的に代金を決定する行為が禁止されました。
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名称変更: 「親事業者」は「委託事業者」へ、「下請事業者」は「中小受託事業者」へ名称が変更されました。これは、対等な取引関係を志向する姿勢が法律名にも表れているものです。
施行から3ヶ月。専門家が語る、大手企業の現場で起きていること
公正取引委員会は監督体制を強化していますが、多くの企業で既存契約の見直しは十分に進んでいないのが現状です。数百名規模の業務委託スタッフを活用する大手通信キャリアやIT企業では、契約書フォーマットが長年更新されていないケースも珍しくありません。
厚生労働省で労働基準局や中央労働委員会などの要職を歴任し、現在は労働問題コンサルタントとして企業の労務リスク対応を支援する田岡春幸氏は、施行後の企業対応について次のように指摘しています。
「施行から3ヶ月が経過しましたが、企業側の対応には依然として温度差が見られます。大手企業では契約書の整備や運用ルールの見直しが進む一方、中小企業では実態把握すら追いついていないケースも少なくありません。
特に懸念されるのが、契約形式上は業務委託でありながら、指揮命令関係が実質的に存在する『偽装請負』のリスクです。書面上の整合性だけでなく、現場での運用実態が法的要件を満たしているかを改めて精査する必要があります。
新年度の契約更新を終えたばかりの今こそ、取引先との関係性・業務の実態・報酬決定のプロセスを総点検する好機と捉えるべきです。形式と実態の乖離が放置されれば、行政指導や是正勧告のリスクが高まります。早期の内部監査と法務・労務専門家への相談を強く推奨します。」
――田岡春幸氏(労働問題コンサルタント)
そもそも「偽装請負」とは?派遣と業務委託の違いを正しく理解する
派遣契約と業務委託契約の根本的な違い

派遣契約は、派遣元企業が雇用するスタッフを、派遣先企業の指揮命令のもとで就業させる仕組みです。派遣事業を行うには厚生労働大臣の許可が必要であり、厳格な財産的要件が課されます。派遣先はスタッフに対して直接指示を出すことができますが、その分、労働者派遣法に基づく各種義務を負います。
一方、業務委託契約は、受注者が自社の指揮命令系統のもとで業務を遂行し、発注者はその成果に対して対価を支払うものです。発注者が受注者のスタッフに対して直接指示を出すことは、原則として認められません。
この「指揮命令関係の有無」が派遣と委託を分ける最大の判断基準です。昭和61年に出された労働省告示第37号(「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」)が、この区分を明確に定めています。
なお、業務委託はさらに「請負」と「準委任」に分かれます。請負は完成物の引き渡し(建築、ソフトウェア開発等)を目的とし、準委任は業務遂行そのもの(コンサルティング、販売代行等)を目的とします。いずれの場合も、発注者の直接的な指揮命令があれば偽装請負となります。
偽装請負はなぜ起きるのか ― 構造的な3つの原因
偽装請負とは、契約上は業務委託(請負・準委任)でありながら、実態としては派遣と同様の指揮命令が行われている違法状態を指します。無許可の労働者派遣事業と見なされ、労働者派遣法第59条に基づき1年以下の拘禁刑(旧:懲役)又は100万円以下の罰金の対象となりえます。
重要なのは、偽装請負の多くは悪意ではなく、仕組みの複雑さや認識不足から意図せず発生してしまうという点です。

- 発注者がスタッフに直接作業指示を出している
「今日はこの作業をお願いします」という日常的な指示も、法的には指揮命令に該当します。 - 勤務時間やシフトを発注者側が管理している
委託スタッフの出退勤を発注者が決定・管理していれば、実質的に派遣と変わりません。 - 「1人出し」で実態は派遣と同じ
スタッフ1名が発注者のオフィスに常駐し、受注者側のチーム体制がない場合、偽装請負と判断されるリスクは極めて高くなります。
監督体制の強化とレピュテーションリスク

厚生労働省(都道府県労働局)が労働者派遣法に基づき派遣と請負の区分を判断し、公正取引委員会が独占禁止法や取適法の観点から業務委託取引の公正性を監督します。取適法施行により公正取引委員会の権限はさらに強化され、立入検査や企業名公表がより機動的に行使される見込みです。
企業名の公表はレピュテーション(評判)の毀損に直結します。取引先からの信頼喪失や採用市場への悪影響は甚大であり、コンプライアンスの観点から、リスクの未然防止が不可欠です。
新年度を迎えた今、企業が確認すべきこと
契約更新直後は見直しの好機
4月は委託契約の更新・体制変更が行われるタイミングです。新年度の体制が動き出した今こそ、次回の更新に向けて、自社の業務委託契約が取適法の新ルールに適合しているか、契約の実態が「真に委託」といえるかを確認しておくことが大切です。具体的には、以下の点をチェックしてみてください。

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業務委託スタッフに対して、発注者側の社員が直接作業指示を出していないか
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委託スタッフの勤務時間・シフト管理を発注者側が行っていないか
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「1人出し」の常駐型で、受注者側の管理体制が形骸化していないか
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取適法で新設された従業員基準により、新たに適用対象となる取引がないか
一つでも懸念がある場合は、早期に専門家へご相談されることをお勧めします。
業務委託適正推進株式会社について
業務委託適正推進株式会社(GTS社)は、業務委託の適正化を専門的に支援する企業です。代表取締役の藤原大陸氏は、業務委託が日本の生産性向上に不可欠であると考える一方で、「偽装請負」が横行し、働く人の権利が損なわれている現状に課題意識を持っています。同社は、行政・有識者と連携し、業務委託の適正化を社会の仕組みとして確立することを目指しています。
会社概要
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所在地: 東京都多摩市鶴牧1-4-17 いずみビル7F
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代表者: 代表取締役 藤原 大陸
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設立: 2025年10月1日
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事業内容: 業務委託適正化コンサルティング、SHIKIRUの開発・販売・導入及び運用支援
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顧問: 田岡春幸(労働問題コンサルタント/元厚生労働省 労働基準局等歴任)
サービス概要
業務委託向け指揮命令管理ツール「SHIKIRU(シキル)」
「SHIKIRU」は、業務委託における指揮命令の適正化を支援する管理ツールです。特許取得済み(特許第7774370号)で、弁護士・社会保険労務士・元厚生労働省労働局調査員の監修のもと、「誰が、誰に、どの立場で、何を指示したか」のログ記録に特化しています。主な対象業種は、大手通信キャリア、家電量販店、IT開発現場、物流、製造業などです。
- サービスサイト: <https://gyomu-tekisei.co.jp/service>
専門家への相談窓口のご案内
業務委託適正推進株式会社(GTS社)は、弁護士・社会保険労務士・元厚生労働省労働局調査員の監修のもと、業務委託の適正化を専門的に支援しています。特許取得済みツール「SHIKIRU(シキル)」は、指揮命令系統の適正な管理を実現します。「自社の業務委託体制に不安がある」「取適法への対応状況を確認したい」とお考えの企業様は、まずはお気軽にご相談ください。
本件に関するお問い合わせ先
業務委託適正推進株式会社(GTS社)
E-mail:contact@gyomu-tekisei.co.jp





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