調査の背景:なぜ「社員の本音」が経営テーマなのか
近年、人的資本経営への関心が高まる中、多くの企業でエンゲージメントサーベイや1on1などの「社員の声を聴く施策」が導入されています。しかし、現場では「声は集めているが、本音を言っているか分からない」「改善につながっている実感がない」といった課題が散見されることがあります。本調査は、社員が本音を言えない状態(本音レス)が、組織の持続性や企業ブランドにどのような影響を及ぼすのかを定量的に明らかにすることを目的として実施されました。
主な調査結果
1. 組織に潜む「沈黙」の実態:約3人に1人の社員が本音を抑制して回答
「会社のアンケートや面談に対して、どの程度本音で回答していますか」という設問に対し、「すべて本音」と回答したのはわずか10.8%でした。「本音ではない」「回答していない」等を含めた本音遮断層は約3割(34.3%)に達しており、「どちらともいえない」と答えた本音保留層も含めると約6割(57.4%)にも達しています。この「どちらともいえない」という回答層は、組織への明確な拒絶ではなく、「本音を出すことへの安全性が確認できていない」という保留状態にあると推察されます。この結果から、企業が把握しているデータと現場の実態に大きな乖離(情報の非対称性)が生じている可能性が示唆されました。

2. 社外へのブランド毀損リスク:ネガティブ投稿意向が3倍に
心理的安全性が低い職場(本音を言えない職場)では、SNSや口コミサイト等にネガティブな内容を投稿した経験・意向がある層が45.5%にのぼりました。これは心理的安全性が高い層(14.9%)と比較して約3倍の水準です。社内で表明されなかった「本音」は、沈黙として消えるのではなく、制御不能な社外チャネルへと流出し、採用力や企業ブランドを毀損させるリスクを孕んでいます。

3. 人的資本の流出:12か月以内の退職検討率が1.8倍
心理的安全性が低い層では、12か月以内に退職を検討している割合が38.6%となり、高い層(21.6%)と比較して約1.8倍となりました。社員が本音を言えない状態は、単なるコミュニケーションの問題にとどまらず、人材定着率の低下という直接的な経済損失に直結しています。

4. 離職を加速させる要因:「マネジメントの不誠実さ」が不満の筆頭に
会社に対する不満要因として「マネジメントの不誠実・不透明さ」を挙げた層では、退職意向が38.1%、ネガティブ投稿意向が39.7%といずれも高い水準となりました。これは給与や労働条件といった外的要因以上に、「自分たちの声がどう扱われるか」という姿勢やプロセスへの不信感が、具体的な離職や情報発信行動に強い影響を与えている可能性を示唆しています。

5. 職場推奨意向(eNPS)の崩壊:誠実な対応がない組織では「批判者」が95.2%に
「会社が社員の声に誠実に対応していない」と感じている層では、会社を周囲に勧めたいかを示す指標の平均値が2.50点(10点満点中)にとどまり、批判的な回答者(0〜6点)の割合は95.2%に達しました。中立者(7〜8点)は4.0%、推奨者(9〜10点)はわずか0.8%でした。社員の声への向き合い方そのものが、企業の「ファン」としての社員を失わせる決定的な要因となっています。

総括:組織に蓄積される「沈黙の負債」とその爆発的な顕在化
本調査の結果を総括すると、社員が職場で「本音を言えない」という状態は、単なる職場の雰囲気の問題ではなく、企業の「内部防衛力の喪失」と「リスクの外部化」を同時に引き起こす構造的な経営課題であることが浮き彫りになりました。
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「情報の非対称性」という致命的な死角
サーベイや面談において、すべて本音で回答している社員がわずか1割強にとどまるという事実は、経営層が現在把握している「組織の健康状態」の多くが、社員によってフィルタリングされた「建前」である可能性を示唆しています。この実態とデータの乖離(情報の非対称性)こそが、組織内の真の課題を不可視化し、適切な意思決定を阻む最大の経営リスクとなります。 -
「社内での沈黙」から「社外での爆発」への転換
心理的安全性の欠如により社内で蓋をされた「負の本音」は、決して消滅することはありません。社内で解消の術を失った不満は、社外の口コミサイトやSNSといった外部へのネガティブ発信(3倍)や離職(1.8倍)という、企業側が一切コントロール不可能な形で外部へ溢れ出ます。これは、内なる「沈黙」が、ある日突然「外圧」としてブランドを毀損し始めるという、極めてリスクの高い構造を意味しています。 -
「誠実さ」という資産の欠如
離職やネガティブ発信の決定的な引き金が「マネジメントの不誠実・不透明さ」に集約されている事実は、解決の鍵が福利厚生などの外的な条件や結果だけではなく、「プロセスへの信頼」にあることを示しています。社員の声に誠実に向き合わない姿勢は、デジタルタトゥーによるブランド毀損と人材の空洞化を招く「経営的負債」を日々積み立てていることに他なりません。 -
「ブランドの内部崩壊」とアンチ・ファン化のリスク
誠実な対応がない組織において批判者が95.2%に達するという事実は、社員が「最強のサポーター」から「最大の批判者(アンチ・ファン)」へと変質している危機的状況を示しています。社員が自社を推奨できない状態は、リファラル採用などの採用力を奪うだけでなく、組織の求心力を根本から失わせる「ブランドの内部崩壊」を意味しており、企業の持続可能性に対する重大な警告と言えます。
結論として、人的資本経営の真価は、データの収集量という「形」ではなく、その裏側にある「信頼の質」に問われています。社員の本音を「リスクの種」として封じ込めるのではなく、誠実に向き合うことで「改善のエネルギー」へと変換できる組織こそが、長期的な持続可能性を確保できる唯一の組織と言えるでしょう。
株式会社yellba 代表取締役 西川 和範氏のコメント
経営層の皆様に、一度自問自答していただきたいことがあります。貴社の社内会議やサーベイ結果に並ぶ『無難な回答』や『静かな職場』は、本当に組織が健全である証でしょうか。
今回の調査で浮き彫りになったのは、社員の声に蓋をすることの代償が、かつてないほど巨大化しているという現実です。社内で表明されなかった不満や違和感は、決して消滅することはありません。それはSNSや口コミサイトへと形を変え、消えない『デジタルタトゥー』としてインターネット上に永続的に刻み込まれます。一度広まった負のイメージは、その後の求人や採用活動において長期間にわたり多大な悪影響を及ぼし続け、優秀な人材の獲得を阻む強固な障壁となります。
一方で、社員の声に誠実に向き合うことは、目先のリスク回避にとどまらない、極めてリターンの大きい『投資』でもあります。特に『どちらともいえない』と回答を保留している層は、環境次第で組織の強力な味方に転じる可能性を秘めた資産です。社員が安心して本音を話し、それに対して企業が透明性を持って対応するプロセスは、短期的には離職を防止し、中長期的には強固なエンゲージメントを醸成します。その『信頼の蓄積』こそが、個々のパフォーマンスを最大化させ、変化に強い組織を作り上げる源泉となります。
それらを踏まえると人的資本経営は今、新しいステージへと進んでいると感じます。単に『やっている風』な表面的なデータ収集を行うフェーズは終わり、集計されたデータの裏側にある社員の本質的な声とどれだけ真摯に向き合えるかが問われているのではないでしょうか。
社員の『本音』と向き合うことは、時に相応の負荷を伴うものかもしれません。しかし、そうした誠実な対話の積み重ねこそが、持続的な組織成長を実現するための基盤となります。株式会社yellbaは、会社と社員の『信頼』を土台に据えた経営こそが、組織の持続可能性を担保する本質的な道であると考え、今後も変革に挑むすべての企業の皆様と共に、対話が組織の力へと変わる新たな在り方を追求していくとのことです。
調査概要
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調査対象:全国の正社員463名(従業員規模:99名以下(115名)、100〜299名(116名)、300〜999名(115名)、1000名以上(117名))
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調査期間:2025年12月
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調査方法:インターネット調査
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調査主体:株式会社yellba
株式会社yellbaについて
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代表取締役:西川 和範
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事業内容:組織改善プラットフォーム「yellba」の開発・提供、組織診断サーベイ、エンゲージメント向上・定着支援コンサルティング ほか
本件に関するお問い合わせ先
株式会社yellba 広報担当:contact@yellba.co.jp





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