法定雇用率の拡大と、障がい者雇用を取り巻く意識の変化

千葉市教育委員会事務局で障がい者雇用を担当する菅野さんは、当初は法定雇用率の達成が義務感として強かったと述べています。しかし、多くの当事者と関わる中で、「障がいの有無にかかわらず、お互いの違いを理解し、認め合いながら働くことが職場に良い影響をもたらす」という意識に変化したと語っています。現在は、一人ひとりが能力を発揮し、モチベーション高く働き続けられる環境をどうつくるかという視点へと変化しているそうです。

就労移行支援事業所ドットワークの事業責任者である田島さんも、10年前と比べて社会全体の障がいに対する認知や理解が大きく進んだと感じています。当事者が自己理解を深め、必要な配慮を伝えて就職活動に臨むケースが増えているとのことです。また、企業と当事者だけでなく、支援機関が間に入り、企業・支援施設・当事者の三者が連携して支えあう体制が整ってきたことを、ここ数年の大きな変化として挙げています。

就職までの道のりを支える就労支援
Iさんは学生時代に障がいを抱え、自信を失っていました。事務職を希望しながらも、障がいを開示することへの不安から、長年障がいを開示せずにパートとして体を動かす仕事をしていました。転機となったのは、職場で障がい者雇用の存在を知ったことです。一度は転職エージェントを利用して就職しましたが、希望と異なる業務内容だったため退職しました。
その後、「障がいがあると事務職に就くのは難しいのだろうか」と悩む中で就労移行支援を知り、ドットワークにたどり着きました。ドットワークで障がい者雇用で活躍する事例に触れ、「自分にもできるかもしれない」と前向きな気持ちを持てるようになったそうです。

ドットワークでは、利用者と支援者が「個別支援計画書」を作成し、週に1回見直しを行っています。就職までの期間は平均3~6か月ですが、独自の「ステップ5シート」を活用し、一人ひとりの状況や目標に合わせたペースで就職をサポートしています。

Iさんは事務職を希望していたため、パソコン関連のカリキュラムを中心に基礎から学びました。特に、データ入力や修正のカリキュラムで身につけた「ダブルチェックの習慣」は、現在の業務にも活かされているそうです。ドットワークでのスキル習得を土台に、就職後にはMOS(Excel・Word)の資格も取得し、実務で活用できるまでに成長できたことが大きな自信につながっていると語っています。
支援員は、利用者が複数の企業を見学・実習した上で、心から納得できる職場を選べるよう、求人検索や提案を支援しています。企業との関係性も重視し、障がい者雇用についての相談も行っています。Iさんの場合も、見学や実習を通して千葉市教育委員会事務局での就労を自らの意思で選択しました。
就職のその先を支える伴走型の定着支援

千葉市教育委員会事務局が採用で最も重視するのは、「ここで働きたい」という意欲と自己理解です。面接では、障がい特性の理解度、配慮してほしいこと、体調不良時の対応方法を自分の言葉で伝えられるかを確認しています。できること・できないことを就職前に共有することが、長く働き続けるために重要だと考えているとのことです。スキルだけでなく、人柄や成長意欲も大切にしており、まずは得意なことを活かして経験を積みながらステップアップしてほしいという考えがあります。
就職後も、希望者への年2回のフォローアップ面談に加え、困りごとがあれば随時相談できる体制を整えています。勤怠状況も確認しながら、小さな変化を早めに把握し、必要に応じて直接顔を合わせて話すことも大切にしているそうです。
ドットワークの定着支援では、月1回の定期面談を行っています。利用時から「現在の悩み」だけでなく、「将来どうなりたいか」という未来志向の対話を重視することで、自己理解と自立を深めることを目指しています。支援員が介在しなくても、本人と企業が直接コミュニケーションを取り、良好な関係を築ける状態が定着支援のゴールです。そのため、本人が自分の言葉で考えや要望を伝えられるよう支援し、本人と企業の信頼関係の構築を育むことを大切にしています。
Iさんにとって、田島さんや菅野さんとの面談は、仕事や人間関係のすべてを話せるかけがえのない時間であり、「もっと勉強しよう、頑張ろう」というやる気につながっていると語っています。現在は郵便物の仕分け、システム入力、公文書管理などを担当し、周囲の方々の立ち振る舞いから多くの気づきを得ているそうです。
菅野さんは、長く働き続けるためには、自身の障がい特性を理解し、生活リズムや体調を整えることが重要だと考えています。また、職場で「ありがとう」や「助かった」と感謝され、自分が必要とされていると実感できることも大切な要素の一つだと述べています。

障がい者雇用における現在の課題と未来

菅野さんは、障がい者雇用を一層推進する上で、「業務の創出」と「就労体験の充実」の2点が課題であると指摘しています。有意義な業務を創出し、一人ひとりが能力を発揮できる環境を整えること、そして、より多くの方が安心して実習に参加できる環境づくりが求められています。
田島さんは、民間企業においても、雇用率の達成だけを目標にするとミスマッチや定着率の低下につながる可能性があると述べています。これからは採用だけでなく、一人ひとりが長く働き続けてもらうための環境整備と質の担保に社会全体で取り組むことが重要であると考えています。支援機関としても、支援の受け皿を広げながら、本人の成長を支えるきっかけづくりを通じて、企業とともに定着支援を進めていきたいとのことです。
Iさんは、夢だった事務職に就くことができたものの、「本当のスタートは就職してからだと感じている」と語っています。働き始めると、自分に足りない知識やスキルに気づくことも多く、毎日が学びの連続だそうです。職場での経験に加え、定着支援を通じて自分自身を振り返る機会を持つことで、課題を乗り越えながら成長できていることを実感しているとのことです。その結果、働くことへの自信が生まれ、以前より充実した毎日を送れるようになりました。これからも知識や経験を積み重ね、自信を持って次のステップに挑戦していきたいと意欲を見せています。
参考文献
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令和7年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
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今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会 報告書
インタビュー協力者プロフィール
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菅野 雅彦さん(千葉市教育委員会事務局 教育職員課):教員として長年の現場経験を経て、現在は同課の会計年度任用職員として障がい者雇用の実務を担当しています。
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田島 翔太さん(ドットワーク 就労移行支援):就労移行支援・定着支援・自立訓練などを展開する「ドットワーク」の事業責任者です。
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Iさん(ドットワーク利用者):ドットワークの就労移行支援を利用し、障がいをオープンにして千葉市教育委員会事務局の会計年度任用職員として就職しました。
会社概要
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社名: 株式会社ドットラインホールディングス
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所在地: 〒261-7135 千葉県千葉市美浜区中瀬2-6-1ワールドビジネスガーデンマリブウエスト35階
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公式サイト: https://www.dotline-jp.com/
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事業内容: 訪問診療、訪問看護、訪問介護、就労支援施設(B型・A型・就労移行支援・自立訓練)、ナーシングホーム、医療対応型グループホーム、障がい者グループホーム、児童発達支援・放課後等デイサービス等を運営。千葉県を基盤に、首都圏エリアで239拠点を運営し、地域完結型のサービス体制を構築しています。
関連リンク
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ドットワーク(就労移行支援・自立訓練): https://pj.dotline-jp.com/hajimari/
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ドットライン地域連携室 記事: https://www.dotline-jp.com/news/chiikirenkeivol2/



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