調査背景と法整備の現状
近年、日本ではパートナーシップ制度の普及や企業のダイバーシティ推進、2023年6月の「LGBT理解増進法」施行など、LGBTQへの理解が進んでいるという認識が広まっています。企業においては、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に基づき、SOGI(性的指向・性自認)に関する侮辱やアウティングの防止措置が義務付けられるなど、制度面での整備が進んでいます。
しかし、これらの制度や理念が現場にどのように届いているのか、どの層が取り残されているのかは、これまで十分に可視化されていませんでした。さらに、コロナ禍以降の社会不安やSNS上での分断、ヘイトスピーチの拡散などを背景に、LGBTQの人々が安心して過ごせる環境が整っているとは言い難い状況です。このような背景から、性的マイノリティのリアルな職場・生活環境や社会変化・影響をデータで捉え、働きやすい職場・生きやすい社会づくりのための指標とすべく本白書が公開されました。
「LGBTQの仕事と暮らし白書 2026」全文はこちらからご覧いただけます。
https://nijibridge.jp/wp-content/uploads/2026/02/nijiVOICE-whitepaper-2026.pdf
調査サマリー:理解増進法後も残る深刻な課題
本調査の主な結果は以下の通りです。
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「LGBT理解増進法」成立後も、半数以上の職場でLGBTQ施策が手つかずの状態であることが判明しました(54.9%)。当事者が希望する「福利厚生での同性パートナーの配偶者扱い」や「トランスジェンダー従業員へのサポート」といった施策は進んでいません。
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学校や職場で「性別変更に関するネガティブな発言」を見聞きしたトランスジェンダー当事者は、3年間で10ポイント増加し、2024年には47.4%に達しています。
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LGBTQに関する施策は増加しているものの、差別的発言の増加により当事者層の心理的安全性は低い状況です。特にトランスジェンダーの心理的安全性は低下傾向にあります。
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職場でカミングアウトする人やアライ(支援者)は増加していません。
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トランス女性の約4割弱が年収200万円未満であり、トランスジェンダーの約12%が「お金がなく食事を抜いた経験がある」と回答するなど、経済的困窮が明らかになりました。
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同性婚が実現した場合、「同性と結婚する」(43.0%)、「同性の交際相手を探す」(25.2%)といった回答が上位に並び、法制化が当事者の生活に大きな影響をもたらすことが示されています。
職場のLGBTQ施策の現状と課題
職場のLGBTQ施策の実施状況を見ると、2018年から2024年にかけて「特に何の対応もない」と回答する職場は69.9%から54.9%へと改善が見られますが、依然として半数以上の職場で施策が手つかずの状態です。

また、当事者が求める施策と企業が導入している施策の間にはギャップが存在します。当事者が希望する「福利厚生における同性パートナーの配偶者扱い」や「トランスジェンダーの従業員へのサポート」の実施率は依然として低い状況です。

ハラスメントの実態と増加傾向
学校や職場で「性別を変更して生きることに関する否定的な言動」を見聞きしたトランスジェンダーの割合は、2022年の37.4%から2024年には47.4%へと、3年間で10ポイント増加しています。社会的な議論が活発化する一方で、現場レベルでは当事者への抑圧が強まっている可能性が考えられます。

また、セクシュアルハラスメントについても、トランスジェンダーの2割以上が経験しており、2020年以降のパワハラ防止措置義務化後も被害の減少は見られず、現行の防止策が不十分であることが明らかになりました。
さらに、学校や職場での差別的言動は改善が見られず、近年のSNS上における排他的な言説の広がりが現実社会にも影響を及ぼしている可能性が示唆されています。

心理的安全性とメンタルヘルス
LGBTQ当事者層の心理的安全性は、2024年時点で53.2%と過去最高を記録しましたが、非当事者層の67.1%と比較すると、依然として課題が残っています。特にトランスジェンダーの心理的安全性は低下傾向にあり、社会的な逆風や理解不足が職場環境においても当事者を追い詰める要因となっている懸念があります。

メンタルヘルスにおいては、当事者層は非当事者層と比較して2倍以上深刻な実態が明らかになりました。特に、生まれ持った性が男性のXジェンダー、女性のXジェンダー、シスジェンダーのアセクシュアル男性、トランス女性では、約3人に1人が深刻なメンタルヘルスの課題を抱えています。形式的な制度整備だけでは心身の健康改善にはつながっていないことが推察されます。

カミングアウトとアライの状況
職場でのカミングアウト率は2022年から減少傾向にあり、上司へのカミングアウト状況にはほとんど変化が見られませんでした。組織の意思決定層や管理職に対し、安心して対話できる環境が十分に整備されていない可能性が懸念されます。


また、職場におけるアライ(支援者)の有無についても、2020年から2024年にかけて減少傾向にあります。施策の数だけでなく、内容の質の向上が求められています。

経済的困窮の実態
経済的困窮に関する経験の有無では、非当事者層と比較して当事者層で高い結果が出ています。特にトランス女性の36.7%が年収200万円未満であり、トランスジェンダーの11.6%は「お金がなく食事を抜いた経験がある」と回答しています。物価高などの社会不安の影響を直接的に受けていることが明らかになりました。


同性婚法制化への期待
同性婚が実現した場合の希望について調査したところ、LGBTQ当事者層では43.0%が「自分自身が同性と結婚する」、25.2%が「同性の交際相手を探す」と回答しており、法制化が当事者の人生設計に大きな影響をもたらすことがわかります。結婚により「パートナーと同居する」(77.4%)、「家を買う・引っ越す」(55.8%)といった具体的な希望も多く見られました。


調査結果からの提言
2026年2月19日(木)には、厚生労働省の記者会見室にて本白書に関する発表会見が開催されました。

会見では、インターネット上だけでなく、リアルな学校や職場でのトランスジェンダーに関する否定的な言説の増加を認識し、早急に対応する必要があること、特に現場の教職員や管理職が差別に加担せず、適切に対応できるような体制づくりが重要であると提言されました。また、LGBTQ施策が不十分で差別が増え、当事者の心身の健康や社会的なつながりが回復していない現状に対し、LGBTQ支援者や支援団体の活動を支援し、安心できる居場所や相談先の確保が必要であると述べられています。
さらに、日本社会の高齢化も踏まえ、法的に不安定な状況にある家族にとって、同性婚の実現はもう先送りが許されない課題であり、最短での法制化が個人の生活安定と社会での可視化にとって重要であるとのコメントがありました。議論が長引くほど、差別の総量が増える恐れがあるとも指摘されています。
調査概要
本調査は、認定NPO法人虹色ダイバーシティが2022年から2024年の各年5月21日〜6月19日の期間に実施したオンライン調査の結果を統合したものです。有効回答数は、2022年が2,090人、2023年が2,205人、2024年が2,298人となっています。設問数は全50問〜52問(すべて任意回答)で、公式ウェブサイトやSNSなどを通じて調査への参加が呼びかけられました。
認定NPO法人虹色ダイバーシティについて
認定NPO法人虹色ダイバーシティは、性のあり方による格差のない社会づくりを目指し、調査研究・社会教育・LGBTQ+センター運営を行っています。職場・学校・地域など、日常生活におけるLGBTQ+当事者や周囲の人々の生きづらさを解消し、SOGIによる格差のない社会の実現を目指して活動しています。





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